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STEAMへの取り組み

 

 

 

エピソード(1)

      戦時中、私の父はパプア・ニューギニア沖/ヌンホル島上空の日米軍空中戦を目撃した                                                                                                 2023/4月 平 林 正 志

◎ 父は先の戦争中、パプア・ニューギニア島のジャングルで死線をさ迷った
・ 既に亡くなった大正生まれの私の両親は、青春時代を日中戦争、太平洋戦争に翻弄され、戦後生まれ世代には想像も付かない暗い日々を過ごしていたと思う。 父は帝大農学部林学科を卒業、旧王子製紙(株)に入社した翌年、南方森林資源開発を進める国策を担う「王子製紙挺身隊員」に抜擢(?)されて、パプア・ニューギニアに赴任した。 しかし、工場建設の命を請け赴任した民間人(軍属)の立場でありながら、翌年の昭和19年7月には戦局悪化に伴う軍の転進命令に従って、ジャングル湿地帯の中を約1年間さ迷う結果になった。
・ 後に「イドレ死の行軍」と言われ、ヒルや毒虫以外の生物は皆無のジャングルを500km以上も行軍させられた第2軍12000人の将兵の90%が餓死、病死した。 第2軍司令部があったマノクワリ近隣で活動していた王子製紙他の現地企業の社員も、軍隊とほぼ同じ道をたどり、多くの死者(人数?)を出している。 父は九死に一生を得て(ジャングルで行動を共にした上司、同僚1人と3人生還)、ジャワ島アンボンに到着、そこで終戦を迎えた。

◎ 父がパプア・ニューギニアで目撃した日米軍機の空中戦とは、いつどの戦いだったのか
・ 王子製紙(株)の社内誌「南方事業史」が、たまたま愛知県図書館に所蔵されていて閲覧できた。 南方事業史には、旧王子製紙幹部や挺身隊員の手記、回顧録が掲載されている。 それによれば、父は西パプア島の北東に位置するマノクワリ とその少し南の アンダイで活動していた事が分かった。 生前の父から戦争中の話で聞いていたのは 「 近くにあった日本軍基地を爆撃する大型の米軍機に、ちっぽけな日本機が立ち向かって撃ち落されるところを見た。 この戦争に日本はとても勝ち目は無いと思った 」 という事だった。 空中戦のあった近くの基地とはどこか。 戦闘経験がない民間人の父が目撃した戦いは、限られる。
・ 昭和19年4月から7月までの間、マノクワリ周辺で繰り広げられた日米戦の記録を調べると、マノクワリ沖合のビアク島の日本軍基地を米軍機が空爆した大規模な戦いがあった。 最初、これを父が目撃したのかと考えた。 マノクワリから西は、西パプア島のサゴ椰子のジャングルで見通しは効かない。 見たとすれば東に広がる海の上で、島の他は 障害物がなく、天候条件が良ければかなり見通すことは可能だろう。 それに、王子製紙挺身隊は測量も行なったはずで、望遠鏡の扱いはお手の物、島上空の空中戦もはっきり見えたのではないか。

◎ ビアク島上空の日米空中戦は地球の陰に隠れ、マノクワリからは見えない !
・ ビアク島のモクメル飛行場(滑走路3本)はマノクワリから230km先にある。 海岸に立って東の海を見ても、ビアク島は”地球の陰”に隠れ、望遠鏡の倍率を挙げても見えない事に気づいた。 ビアク島上空4000m(富士山を超える高さ)を飛ぶ飛行機は一応見える理屈にはなるが、地上の滑走路を空爆する米軍機は高度1000m以下の低空を飛んでいただろう。  (地図を参照)

◎ 父は昭和19423日ヌンホル島上空でB24爆撃機を迎撃する隼戦闘機を目撃
・ 一方、マノクワリから80km程のヌンホル島の基地も、4月18~22日にB24の爆撃を受けた。 これに対し陸軍は、ハルマヘラ島(インドネシア)に待機していた一式戦闘機(隼)26機をヌンホル島に送り、4月23日、米軍B24爆撃機11機を迎撃した事がわかっている。 ヌンホル島は、幅20km、標高200m程の小島で、父が居た対岸のマノクワリから見ると水平線の下に隠れている。 しかし、ヌンホル島の上空500mを超える高さで複数の飛行機が飛び交う空中戦は、十分目撃できたと考えられる。
(地図を参照)
・ 基地が潰される都度、地上に残された数少ない戦闘機も飛行不能となり、パプア・ニューギニアにおける日本軍の制空権はこの頃までにほぼ失われた。 4月23日の、ヌンホル島上空で繰り広げられた空中戦に匹敵する日米軍機の激戦は、これ以降見ることはなかったと思う。

(米軍は6月7日にはビアク島の飛行場を制圧、7月2日にヌンホル島にも米軍上陸)

 

 

 

 

 


 

エピソード(2)

   伊勢志摩のホテルから200km先の富士山が、水平線から浮き上がって見えた

                                                                                      2023/4月 平 林 正 志

◎ 初日の出を待つホテルの屋上から、200km先の富士山が見えた
・ 2022年元旦は、家族と共に伊勢志摩のホテルで迎えた。 早起きしてホテル屋上に集合、他の宿泊客と共に初日の出を待っていると、ホテルマンが 「今朝は、富士山もご覧になれますよ」 とのアナウンス。 水平線上には、見慣れた富士山のシルエットが見えた。 遠くのぼんやりした姿はタブレット端末のカメラではうまく撮れないが、目視で頂上から下の宝永山のあたりまで見えた。 伊勢志摩から富士山が見えるとは聞いていたが、山の天辺がちょっと見えるどころか、宝永山の高さまで富士山の形がわかるとは思わなかった。
・ 地図上ではホテルから富士山頂上までは、ほぼ 200kmの距離がある。 ホテル屋上の海抜を54mとして、富士山頂が見晴らし可能な距離を計算で求めると約240kmとなる。 さらに200km離れた距離から富士山のどの高さまで見えるかを求めると、標高2600mとなった。 つまりホテルの屋上から、宝永山から上の部分の富士山が見えても、不思議ではない。

◎ 和歌山・那智勝浦町/色川富士見峠から、320km先の富士山を撮った写真もある
・ 天候、気象条件が整わないとなかなか見られない富士山は、カメラマンの絶好の被写体であり、たびたび伊勢志摩の地元新聞の紙面を飾っている。 伊勢志摩から西に位置する和歌山・那智勝浦/色川富士見峠から320km先の富士山を撮った写真もある。 これが、最も遠くから捉えた富士山の写真らしい。
・ 富士山から320km以内でも、地平線から突き出て視界を遮る高い山があれば当然見えない。 しかし伊勢志摩から富士山を望む場合、渥美半島から御前崎の海岸線までは海面で障害物無し、また渥美半島から東側の陸地は大部分”地球の陰”になっていて、水平線から顔を出すような山は富士山位である。 富士山は断トツに高いので、遠くから見る場合に視界を遮る山は無く、正に日本の象徴に相応しい山であると言える。

◎ 伊勢志摩の浜から見た富士山は、逃げ水現象により海面から浮き上がって見える
・ 伊勢経済新聞に載った、安乗(あのり)の海岸から見た富士山は、背後の明るい空に浮かぶ富士山の青いシルエットである。(写真は望遠レンズ使用? 目視の場合は、ここまでクリアには見えず) このように富士山が海面から浮き上がって見える見た目から、これは”浮島現象”と呼ばれる上位蜃気楼であると説明される事が多い。 しかしこれは、むしろ”逃げ水”と呼ぶべき下位蜃気楼が発生していると考えたほうが良い。(図を参照)


1) 浮き富士の見える季節の伊勢志摩の海は暖流の影響で水温が高い一方、上空は冬の寒気で覆われている。 そのため、海水面に接する大気の温度が高く、上空は低温となる。このような温度勾配の空気層を通る光は、空気がより冷たい上向きの方向に屈折する。 2) 海岸から空気層を通して屈折する光によって、”逃げ水”現象が発生、シルエットの宝永山から下の部分が鏡面になってそこに”逆さ富士”が映る。 しかし、水平線以下は地球の陰になっていて見えないので、”逆さ富士”は水平線以上の部分のみが見えている。 そのため、富士山のシルエットの下側にも背後の明るい光が見えて、富士山が浮いているように見える。


 

エピソード(3)

   飛行機の窓から気持ちの良い青空が見えていても、外は希薄大気、極寒の世界

                                                                                     2023/6月 平 林 正 志

飛行機は石垣島に向かって、高高度、極寒の空を飛んだ
・ 2023年正月の家族旅行で、初めて石垣島を旅した。 行き帰りの飛行機では、水平飛行に移行すると、窓の外は青空、下界は一面雲の同じ風景が続くだけなので、もっぱら座席上のモニターに表示される飛行中の高度、対地速度、外気温の数字を眺めていた。 日本文と英文が交互に表示され、各々の単位も、高度m ⇔ feet、速度km/h ⇔ mph、気温°c ⇔ °F と変わるところで、気温の数値に違和感を持った。 摂氏温度-40°C ⇔ 華氏-40°F と同じ値になっているのを見て、一瞬間違いではないかと思った。  

・ 日本国内の普段の生活では 華氏°F は馴染みがなく、自分も「熱力学」を講義する時にも、摂氏°C と異なる温度表記として触れる程度。 そのため 「同じ温度でも、摂氏より華氏の方が数値は大きい」 となんとなく思い込んでいた。 後で海抜高度(標高)と外気温の関係を求めてみると、地上(海抜0m)の外気温が20°Cの時は、華氏では68°Fである事、一方、その条件における高度10kmの外気温は-40°Cであり、華氏も -40°Fとなる事を確認した。(右図) 日常生活で-40°Cの低温を体感する機会はめったに無いが(冷凍倉庫で作業する人は別)、飛行機を利用する人には、意外に身近な世界(しかし生死にかかわる環境)と言える。

飛行機の対地速度は、ジェット気流の影響で大きく変化した
・ 座席上のモニター画面を見ていると、水平飛行中の高度はほぼ10km。 またこの時の対地速度は、往路(石垣島行き)で約700km/h、復路(中部空港行き)では約1000km/hだった。 飛行機は往路では迎え風の中を飛び、復路では追い風に乗って飛んでいたに違いない。 高度10kmで西から東向きに吹く風はジェット気流と見当が付き、旅行後に、気象予報士(松田巧氏)のブログから1月初旬の気流の状況を調べた(右図)。 これを見ると、上空10km高さで最大100KT (=185km/h ) の風速がある。これより、対気速度850km/hで飛ぶ飛行機が、往路は150km/hの迎え風を受けて対地速度700km/h、復路は150km/hの追い風を受け対地速度1000km/hで飛行したと考えれば納得できる。 (数字の辻褄合わせ?)

◎ 旅客機の飛行高度10kmより少し上、高さ約16kmまでが地球の対流圏
・ 2022年12月ワールドカップ/日本-スペイン戦では、三苫選手がラインぎりぎりに蹴り返したボールがライン上にあった事 (写真判定でわずか1.88mm内側) が認められ、日本が劇的ゴールを挙げ勝利した。  “三苫の1mm” として後々まで語られるこの話題は、サッカーボールを地球に見立て、大気層の薄さに例えた気象学者のツィートによって一層彷彿した。
・ お茶水女子大気象学研究室の神山翼助教授が「我々の住む地球大気の薄さ16 kmは、地球半径6371 kmの0.3%です。 もしこれがノーゴールなら、陸上に生命はいません」 とツィート。  神山助教授は、学生に「気象学は、地球を取り巻く極めて薄い大気層の中で起こる現象を明らかにするのが目的」 と説明しようとしていた。 そのタイミングで、ワールドカップでサッカーボールがラインを割ったかどうかのmm単位の議論を知り、地球表面の大気層は薄いが、その存在は生命にとっていかに重要かという事と結び付けた。 落語でいえば “座布団一枚” と声を掛けたくなるような絶妙なツィートだった。
・ 高度と気温の関係図の通り、旅客機の飛行高度10kmまでは、気温は高度に対し直線的に低下する。 地表の水が蒸発上昇し気圧、気温が低下して雲になり、雨となって再び地表に降り注ぐ”対流圏”は、”大気圏約100km”の下から約10%で、生物が平穏に生きられるのは地表面に付いた薄皮一枚の大気中である事を思い知らされる。

 

 


 

エピソード(4)

   膝関節を傷めない階段の降り方、自転車で路面段差のショックを避けるコツ

                                                                                      2023/6月 平 林 正 志

スポーツで体は鍛えられても、関節は鍛えられない
・ 既に亡くなった私の母親は、薬剤師として働き詰めの生活から解放された65歳過になって、戦時下の女学校時代にはやりたくてもやれなかったテニスを始めた。 市のテニスサークルに入会、一世代下の男性相手の試合にも喜んで参加した。 もともと負けず嫌いの性格の上に、周囲からテニスサークル最高齢のプレイヤーとか言われ、ついつい頑張り過ぎ、膝関節を傷め、70歳頃にはテニスができなくなった。 体は丈夫、健康で長生きしたが、膝関節を傷めた事で、晩年は外出もままならなくなった事を悔やんでいた。 テニスは激しいスポーツというイメージはあまり無いが、試合になるとコート内を素早く行きつ戻りつする繰り返しで、下肢に大きな負荷がかかる。 テニスをやり過ぎた母の膝関節の軟骨は摩耗し、2度と再生する事は無かった。

物体に加わる重力は静荷重、物体の運動量を変える力は動荷重
・重い荷物を背負えば大きな「静荷重」が体にかかる。 一方、スポーツで体を激しく動かした場合、加減速の持続時間と自身の質量の値に応じた「動荷重」がかかる。 この場合動荷重は、力積と運動量変化の関係として表せる。
[物体に作用する動荷重]F×[作用時間]⊿T=[力積]
⇒ [力積]=[動荷重作用前後の運動量変化]( [m・v]after-[m・v]before )
普段の生活でも、高い所から飛び降りれば、着地時の衝撃により、関節の負荷も急増する。 人が段差hの高さから速度0で飛び降り(自由落下)、着地した瞬間から体の重心の速度が0になるまでの時間を⊿Tとすれば、重心に加わる動荷重Fave(平均値)は、
Fave =m×√(2gh) /⊿T
この力は、着地した足裏が地面から受ける力でもある。  地面に衝突する物体の運動量が同じでも、静止するまでの時間⊿Tが大きくなるように受け止めれば、衝撃荷重は低減できる。 これは「緩衝効果」と呼ばれる。

地下鉄の階段で、関節にあまり負荷を掛けずに素早く降りる工夫
・ 名古屋市内の移動には地下鉄を利用する事が多い。 駅の階段を下りる人を見ると、足を踏み外す危険があるからか、一段降りる度にストップモーションを掛ける人が多いと感じた。 そうした人が階段を降りる場合の重心の軌跡は、右図の赤ラインのように、1ステップ毎に山なりに変化し、不連続点もあり、重心位置の変動、速度の不連続が動荷重を発生させている。  そこで右図の青ラインのように、エスカレーターに乗っているかのように、重心位置を階段踏面に対して一定に保ちつつ、一定速度で下に降りれば動荷重は発生しない筈。  1段下に降りる過程で、重心高さを意識しながら膝を曲げ、踏み面で体を停止させる事なくそのまま階段下まで進む。 そうすれば足音を立てず関節にも負荷を与えず、しかも高齢者らしからぬ速さで降りて行ける事、請け合いである。   [補足」(後の記述参照)

自転車で、歩道の段差を越える時の衝撃軽減の方法
・ 近くに出かける時は、自転車にも良く乗る。  車両扱いなので車道走行が基本でも、交通状況に応じて歩道を走る事も多い。 ただし、大通り沿いの歩道は、大通りにつながる細い車道で分断されている事が多く、自転車で進むと、車道と歩道を仕切る段差を越える度に車体と人に衝撃が作用する。 自転車によく乗る人には周知の事かもしれないが、こうした段差による衝撃を軽減するには、段差のある区間では自転車は漕がず、左右のペダルに両足を置き、サドルから腰を浮かした状態で惰性で走り抜ければ良い。
(1) 左図のように、通常の乗り方では、自転車が段差に乗り上げる時に、車体とサドル上にある人の上肢部分にまともに衝撃がかかる
(2) 右図のように、腰を浮かせ、左右のペダルに両足をまたいで立つ形にすれば、サドルを介した人体への衝撃は無くなる。 更に、サドルに載る質量がなくなる分、車体を変形させる衝撃荷重も減る。 また、人体の重心が中央寄りになって衝撃によるモーメントが小さくなる上、膝を少し曲げて下からの衝撃を受け流す事による、緩衝効果が期待できる。 (図中の人の脚に相当する所には、”ショックアブソーバー”の絵を描いた)

 


 

エピソード(5)

   ベイルート港の肥料倉庫が爆発し、衝撃波は高度300kmの宇宙にまで届いた 

                                                                                      2023/7月 平 林 正 志

ベイルート港の肥料倉庫爆発による衝撃波が、近隣諸国にも響き渡った
・ 2020年8月4日ベイルート港の肥料倉庫に保管されていた1トンの硝酸アンモニウム(約1.33ktのTNT爆薬に相当)が爆発し、190人以上の死者、港湾地区にあった多数の建物が倒壊する等の被害が出た。 この爆発により発生した地震波や衝撃波(音波)は、海を隔てた200km先のキプロス島を含め、多くの観測所で記録された。(京大防災研)
また、その衝撃波が、爆発の約10分後に高度300kmにある電離層に擾乱(定常状態からの揺らぎ)を与えた事も確認された(北大理学部・インド国立理工学院の共研チーム)
・ 前年末に日産自動車・元会長カルロスゴーン氏が日本を脱出、レバノンに逃亡した事件もあり、ベイルート港の爆発事故に対する日本のマスコミの関心も高かった。 私も、テレビで爆発の瞬間を捉えた動画を見るうち、爆発事故特有の現象に気づき、興味を抱いた。

肥料倉庫爆発の瞬間を捉えた映像で、一瞬見えた球形状の白煙がすぐに消えた理由
・ ワシントンポスト等、海外の報道機関が爆発の瞬間を捉えた多くの動画を公開している。 大体どの映像でも、
1) 白色に赤茶色が混ざった噴煙が立ち上る様子を映していた画面に、2) 突然、白い半球を重ねたような形の雲が現れ、急拡大、3) カメラ映像が爆風の影響を受けて乱れ、撮影終了となっている。
・ 1) の場面では、硝酸アンモニウムの燃焼に伴う高温、高圧条件により化学反応が爆発的に進行、燃焼ガスが急膨張して超音速になり、半球面の表面に圧力波が重なり、衝撃波となる。 2) の場面では、衝撃波で囲まれた半球面内部の空気+燃焼ガスは急膨張(断熱膨張)して、温度は露点以下となり「白い丸い雲」が発生する。更に、大気圧以下となった半球面内部の地面近くに外気が流入すると、白雲が消滅。 半球面の部分が上空に向けて吹き上げられ、爆風、衝撃波が広がる。
( 特有の「キノコ雲」が立ち上る )

爆轟発生に伴う球形状の白煙は、超音速で移動する物体背後の白煙と同じ理屈で発生
・ 2)のような爆発は、爆轟(デトネーション)と呼ばれる。 衝撃波の直前の空気は断熱圧縮され高温・高圧の空気層となる。また、衝撃波の後方の空気は、断熱膨張により低温・低圧となり、露点以下で白煙が見られる。
この白煙は、ジェット機や上昇中のロケットの先端でも見られる。 右の写真は、亜音速で飛行するジェット戦闘機において、機体表面の流速が超音速となる部位に衝撃波が生じている映像を示す。 衝撃波そのものは見えないが、衝撃波後方で断熱膨張により生じた白煙が見える。

地震波や音の伝播速度は、教科書通りの値になった
・ ベイルート港大爆発で生じた地震波や衝撃音の波形記録が公開された。 震源地から計測点までの距離、爆発発生時から衝撃波形記録までの経過時間から、波の伝播速度を求めてみた。
キプロス島の地震波記録から、ベイルート大爆発によるP波(縦波)、S波(横波)、T波(海水中の縦波)(海岸線近くに観測点有り)が到達した事が確認できた。 (右図&伝播速度計算結果参照)
・ キプロス島で把握された衝撃音の伝播速度 Cs≒300 m/s で、標準大気における音速340 m/s に近い値だった。 爆轟で発生する衝撃波は、超音速の2km/sであっても、爆心地からの距離の3乗に逆比例して圧力のピーク値は下がり (衝撃波で囲う半球の体積が距離の3乗に比例して増加する事に対応)、5kmも離れれば、衝撃波は音波と同じ程度の波動になっている。 従って、爆心地から200~300kmの地点に到達するまでの時間で速度を計算する場合、爆轟が続く最初の数分の時間経過は、計測誤差の扱いで済むと考える。

衝撃音の大きさがどの程度のものか、音圧レベルに換算してみた
・ 爆発した硝酸アンモニウムが、TNT爆薬で1.33kt相当の量であること、硝酸アンモニウムがTNT換算で 4.6GJ/t の熱エネルギーを持つ事が分かった。 爆発のエネルギーの全てが半球面の圧力波として広がると仮定し、音の強さP(W/m^2) 、音圧レベルLp(dB)を求めてみた。    (下図参照)
爆心地から220 km離れたキプロス島には、爆発の約12分後に Lp=132dB、P=16 W/m^2 の衝撃音が到達するという結果になった。 熱損失や地震波の形で地盤を伝播するエネルギーも含めた過大な評価になっているとしても、キプロス島に暮らす住民を驚かすのに十分な衝撃音が伝わったと考えられる。

 

 

 

 


 

エピソード(6)

   身の周りに”音”が満ち溢れる理由は、音を伝える”流体”の性質と関りがある

                                                                                      2023/7月 平 林 正 志

音は流体中を伝播する縦波であり、波形を保ちながら離れた場所に伝わる
・ 空気や水のような流体は、変幻自在に形を変える連続体であり、その体積変化には抵抗を示す弾性体でもある。 流体の微小部分が動かされ、かつ体積変形が生じると振動が発生、その方向の “縦波” が周囲の流体に広がる。
・ 人間の声も鳥のさえずりも、音として伝わる。 音は”縦波”なので、遮蔽物の無い空間に置いた点音源から出た音は放射状に広がり球面波となる。 音源から離れる程、単位面積当たりの音の強さは低下するが、音の波形は保たれるので、声やさえずりも正しく聴き取る事ができる。

特徴的な警報(ピーポー音)が聞こえれば、救急車の接近に気づく
・ 図1.は、救急車が警報を発しながら時速90 km/hで進む状況を示す(座標軸は救急車と共に移動)。 図中の円は、警報音の広がりを示す(地面からの反射は無視)。 救急車が近付く時、先に発生した音を、車が更に進んだ位置で出した音が追いかける形になる。 そのため路上に立つ人には波長が短い高い音、また反対に車が遠ざかる場合は波長が長い低い音に聞こえる (ドップラー効果)。  これは、音の発信場所と時刻がずれて音程が変わって聞こえるだけの事で、決して “走る車の前後の空気が圧縮、膨張する事で音の波長が変わった” 訳ではない (ネットに、ドップラー効果について誤った解釈が載っている)。

物体が動き、周囲の流体を押しのけ生じる圧力変化(擾乱)も、音速で広がる
・ 図2.に、時速300km/hで走行する鉄道車両のノーズ先端で生じた圧力変化の広がりを示す(座標軸は鉄道車両と共に移動)。  時刻t=0のノーズ位置を原点に、時間差10ms 間隔の球面波を描いている(地面からの反射は無視)。 一番外の球面波(n=10)は、時刻 t=-100ms に発した圧力波、つまり、ノーズが現在位置より 8.33m 後で発した圧力波は、進行方向 x=26m の位置に届いている。 つまり圧力波は、鉄道車両より常に先行し広がっていく。

ジェット機が音もなく近づき、目の前を通過した途端、大爆音を立て飛び去る
・ 図3.に、マッハ1.5 (時速約1840km/h) で水平飛行するジェット機のノーズ先端で生じた圧力波の広がりを示す(座標軸はジェット機と共に移動)。 球面波 n=10 、9、…1 の圧力波は全てノーズ先端を頂点とする円錐面(マッハコーン)で重なり、ここに衝撃波を作る。 ジェット機周囲を右から左に流れ、マッハコーンより上流側にある空気には、下流側で生じた圧力変化は伝わらない。 つまり、ジエット機に向かう空気を擬人化すれば、マッハコーン(衝撃波面)にぶつかる迄、ジェット機の接近に”少しも気付かない”と言える。  この事は、低空を飛ぶジェット戦闘機が少しの音もなく接近し、頭上を通り過ぎた途端に排気口からの大爆音と圧力を体感できる事からも裏付けられる (個人的には、岐阜基地航空祭で経験した)。

静止気体中を一定速で動く物体の周囲の流れは、過渡過程から「定常流れ」に移行
・ 右図(写真)に、競技用自動車のエンジン冷却器カバーと、中の冷却器を通る流れを可視化した実験例を示す。 図中の黄色の破線A,Bは、冷却器カバー入口でよどみ点を作る流線を示す。 右上図破線A、Bの流線で挟まれた領域を進む流体のみが冷却器を通り、破線A、Bの流線の外側の流体は、全て冷却器カバーの外を流れる。 右下図は、冷却カバー内部に整流ガイドを追加した事により、破線A、Bの流線で挟まれた流れの幅は増え、冷却器周りの流量が増大した事が裏付けられる。

流体が物体と接触する際の圧力変化は、物体より上流の流体にも音速で伝わる
・ 右図(写真)の流れを、擬人化して眺める。 ➀流体は連続体なので、冷却器カバーや冷却器等の邪魔物に対し自らの形を変え、うまくすり抜けている ②流体は弾性体でもあり、邪魔物に接触した際の圧力変化は、周囲の流体のみならず、まだ上流側に有る流体にも伝わる (音速で伝わる) ③流れが邪魔物と接触し加速される、また加速が0となってもその影響が流れの全域に及ぶまでは「非定常流れ」、その後、流れのどの位置の圧力や速度も、時間的に変化しない「定常流れ」に移行する。 (<下記参照 >-非定常,定常流れの解析式)
・「定常流れ」では「ベルヌーイの定理」が成立する。 流れ場の一点を流れる流体は、常に新しい流体と入れ替わって行くにもかかわらず、その点の流れの方向も速度も常に一定となる。 あたかも、その点に流入する流体が、より上流側にある物体からの圧力を感じて、物体に衝突しないように流れ方向や速度を”あらかじめ”決めているかのように見える。 従って、流体が内部を伝播する音によってのみ下流側の物体の存在を感じるのであれば、超音速で進む物体の存は、物体か物体作る衝撃波にぶつかるまで気づかない…という理屈になる。

 

 


 

エピソード(7)

   身近に見られる送電線や吊り橋は、特有の形状で垂れ下がる

                                                                                      2023/8月 平 林 正 志

両端を持ってぶら下げたロープは、カテナリー曲線(懸垂線)を描く
・ 一様な太さの柔軟なロープやチェンの両端を持ってぶら下げると、重力によって下向きに窪んだ特有の形の曲線が現れる。 曲線は”懸垂線”とか、”カテナリー曲線”(鎖や絆を表すラテン語に由来)等と呼ばれ、建築家アントニオ・ガウディが、サグラダ・ファミリアのアーチの設計に応用した事でも知られている。
・ 身近に見られるカテナリー曲線は、吊り橋を支える太いケーブル、空中に張り巡らされた架空(かくう)送電線、電車のパンタグラフと接するトロリー線を支える吊架線(ちょうかせん)、作業現場の立ち入り禁止区域を仕切る黄色いプラスチックチェン等がある。
・ プラスチックチェンをぶら下げて写真に撮り、カテナリー曲線の理論式と突き合わせてみた。 リンク゛同士が折れ線状につながるチェン構造でも、それを連続体とみなした理論曲線によく一致する (図1)

瀬戸内の島の海峡に掛かる送電線に、ヘリコプターが接触、墜落事故が発生

・ 2010年8月、瀬戸内海の佐柳島※(さなぎしま)と小島(おしま)の間に掛かる送電線に、海上保安庁/広島航空基地所属のヘリコプター「あきづる」 が接触して海上に墜落、乗員5名が殉職する事故があった (図2) (※世間には「猫の島」と呼ばれる)
・「あきづる」は、香川・多度津沖を航行する司法修習生が乗った船に対し、デモンストレーション飛行を行っていた。 最初のデモ飛行から二度目のデモまでの時間を利用して当該海域のパトロール業務を続けるうち、15時10分頃、海峡をまたぐ架空送電線に接触、墜落した。 佐柳島の目撃者によれば (1) 15時過ぎ、布団を取り込みに庭に出ると、思いの他低空を飛ぶヘリコプターが目の前を通過、直後に”バシッ”という音が響き、自宅が停電した (2) 勤務中の役場が突然停電し、直後に轟音を聞いた。 外に出たら、沖にヘリコプターの機体とヘルメット数個が浮いているのが見えたという。

ヘリコプターは、どこで送電線に接触したか
・ メディアは 「6000ボルト送電線(全長1179m、海面より最高地点105m)に機体が接触し、そのまま海面に激突し大破沈没」 と報道している。 実際のところ、機体が送電線のどの位置で、どの高さで接触したかは不明(客観的な裏付けデータがないため?)のようだ。
・ 目撃情報から (1) ヘリコプターは墜落直前まで低空を正常に飛行 (2) 墜落直後の海面に浮かぶ機体やヘルメットが見えた 事から、ヘリコプターは送電線が垂れ下がった低高度で、また小島よりも佐柳島に近い場所で送電線に接触、バランスを失い墜落したと思われる。 その状況を、ネットに上がった事故報告情報や地図情報を使って推定してみた (図4)
佐柳島-小島に掛かる架空送電線は、電力線2本とその上に配した架空地線(避雷針の役割)1本の計3本で構成されている (図3)  そこで、小島に建つ鉄塔上端の架空地線高さが海抜 105m(最大値)、佐柳島の鉄塔上端の架空地線高さを海抜75mとし、送電線はこの間を繋ぐ”懸垂線”として形状を定めた。 架空送電線の最大たわみ点は佐柳島海岸から約250mの位置、また最大たわみ量を55mとすると、電線ケーブルの引張り強度の安全率は3 (規制値1.5以上)となった。 電力線の最大たわみ点は海面から約45mの高さに有り、島周辺を航行する船舶の障害にはならない。
・ 1000m以上もある区間に張られた送電線にヘリコプターが接触した事故は、よほど不運な出来事にも思える。 しかし図4 を見ると、”懸垂線”の最下点付近の形状は比較的平坦であり、しかも架空送電線の上の架空地線と下の電力線との高さの差は4.5m (図3 参照) もあるので、低空飛行するヘリコプター(bell 412EP、全高4.6m)が送電線と接触しうる領域は、高さ9m×幅350mと案外広い事に気づく。 鉄塔頂上の障害灯を目印にして、それより高く飛ばない限り、送電線との接触事故の危険は避けられない。

送電線との接触を避けるために、機長はどうすれば良かったのか…”たらればの話
・ 運輸安全委員会の報告書によれば、事故が起きるまで飛行していた他の島の間には送電線がなく、機長らに障害物の認識がなかった他、送電線の存在に気づくために島の鉄塔に設置された障害灯が、樹木で見えにくい状態だったと推定している。
・ 機長は送電線の存在を知らずに佐柳島のそばを低空飛行した可能性が大きい。 仮に飛んでいる時に佐柳島の鉄塔頂上の障害灯に気づいたら対応できたか?。(小島の障害灯は遠く、更に高い位置にあり、見難いだろう) 巡行速度226km/hで飛んでいる時に約300m手前で障害灯に気付いてすぐ急上昇すれば、佐柳島の鉄塔にある障害灯以上の高度となって衝突は回避できたかも…と事情を知らない者は勝手な憶測をする。(図5)



エピソード(8)

   月面のアバタも, 6600万年前の恐竜絶滅も, 隕石衝突のシワザ

            「隕石衝突は爆発だ!!」                                                                                                                                       2023/10月 平 林 正 志

6600万年前の巨大な隕石衝突により、恐竜が絶滅した事は確からしい
・ 1980年のサイエンス誌で、ノーベル物理学賞受賞者のルイス・アルバレスと、息子で地質学者ウォルター・アルバレス他が、恐竜絶滅は6600万年前の小惑星の衝突によってもたらされたと発表した。 発表当時、”アルバレス説”を裏付ける規模の天体衝突クレーターが見つからなかった事もあり、地質学者や古生物、生物進化の研究者から、素人考えの荒唐無稽の説との批判を浴びた。 その後も、過去5度の生物の大量絶滅の原因として、天体衝突に伴う地球環境変化と生態への影響に関する大論争が続いた。
・ 1983年に宇宙物理学者カール・セーガン他が、核戦争が起これば地球規模の環境変化で人為的な氷河期が来るとする”核の冬”説を提唱してからは、恐竜絶滅の原因についての”アルバレス説”も、”まともな”学説として扱われるようになった。 更に1991年に、メキシコ、ユカタン半島チチュルブで地下に埋もれた巨大なクレーターが発見され、6600万年前に”核の冬”を引き起こす規模の天体衝突があった事が、事実として受け入れられた。 ( 図1. チチュルブ・クレーターの跡を特定した地質調査結果 )

月面のアバタは噴火の跡か、天体衝突のクレーターかの論争は、アポロ計画で決着
・ 地球では風化作用や地殻変動があり、太古のクレーターの殆どは消滅ないし埋没した。 地表で確認できるのは、米国アリゾナ州のメテオール・クレーター(5万年前の天体衝突跡)他の極少数に限られる。  これに対し月の表面には多数のクレーターが残っている。
・ 月に大気は無く、地球であれば大気圏突入時の空力加熱で消失してしまうような小さな隕石も月面に落下する。 その結果、月の誕生以後のクレーターがそのまま残り、月面を”アバタ面”にした。  ( 図2. 月面に残る天体衝突クレーター )
太古の地球を思わせる月面のクレーターはほぼ円形である事から、火山噴火の跡とする考えも根強かった。 しかしアポロ計画で月面から持ち帰った物質の調査により、アバタの殆どが天体衝突クレーターである事が分かり、論争に決着が付いた。
天体衝突クレーターが円いのは、隕石爆発の跡だから
・ 月面のアバタは噴火の跡とする根拠の一つが、「天体衝突ならば、月面に対し様々な角度で衝突するから、楕円形のクレーターや砕けた隕石も多数あっても良いはずだ。 だから、円形のクレーターは火山噴火の跡」  との考え方だ。  しかし天体衝突は、 陸上競技の砲丸投げで、鉄の玉が地面に衝突する場合とは全く異なる結果を引き起こす。
天体衝突からクレーター生成までの過程を追う
・文献4)の英科学誌に掲載された、チチュルブ・クレーターの天体衝突シミュレーション結果の一部を示す。
(図3. 天体衝突シミュレーションの例 )
興味深いのは、衝突の20秒後には直径50km余りのクレーターが出来、衝突点近傍にあった地盤は隕石でクレーター底まで押し込まれた部分を残し、隕石本体もろとも消失している点である。 衝突した瞬間からクレーターが出来るまでに何が起こるか、その過程を時刻歴で辿ってみた。 ( 図4. 天体衝突のイメージ図 )
(1) 直径10kmの隕石表面は、大気圏の空気の断熱圧縮で既に、高温、溶融状態にある。 地表に衝突した後、溶けた隕石表面が地表の岩石、瓦礫と共に、隕石周囲の隙間から噴出しながら地中に突入する(秒速15km) 同時に、地表と衝突した隕石先端で衝撃波が発生し、隕石の他端に向け伝播する(秒速7km)  一方、隕石衝突による衝撃波は地表にも広がる事で減速し、地震波の速度(秒速3.3km/s)で地盤に伝播する。
(2) 隕石先端の衝撃波は、隕石に(+)の圧力を加えながら伝播、衝突1.4秒後に他端で反射し(ー)の膨張波となって隕石先端に戻る。 更に衝突2.8秒後に膨張波が隕石全体を覆い、隕石内部の圧力が解放されると一気に粉砕、昇華(蒸発)する ⇒ 爆発する。
(3) 隕石は、投げた石が地球の引力に勝って宇宙に飛び出せる秒速12km以上の速度で地表に突入する。一方、衝突時に隕石先端で発生する衝撃波の速度は衝突速度の1/2以下と遅い。 そのため隕石は地中深くに潜った状態で爆発し、隕石本体もろとも周囲の地盤を瓦礫、ガスとして上空まで吹き飛ばし、初期段階のクレーターが形成される。

・ 図4.の隕石モデルの場合、地中深くに突入する間に地盤との接触、摺動で変形したり、表面が摩耗する等の損失があるとしても、元を辿れば E = 2×10^14 [GJ]の運動エネルギーを持つ衝突天体である。  E = 2×10^14 [GJ] の爆発エネルギーを持つ爆薬を地中深く埋めて爆発させれば、地表に大穴が開き、月面と同様の丸いクレイターが出来るだろうと想像できる。


エピソード(9)

 飛行機の翼になぜ揚力が発生するか、(自分なりに)納得できる解説

                                                                                    2023/12月 平 林 正 志

飛行機で空を自由に飛び回る事より、「飛べる理屈」に興味があった
・ 子供の時から「飛行機オタク」だった。 小中高時代の休日は、模型屋さんに通い詰めて自作した模型飛行機を、近くの広場で飛ばす事に費やした。 特に、バルサ板を切り出して作るハンドランチグライダー(手投げで、より長時間の滞空を目指す)にハマっていた。  高齢になっても模型飛行機への興味は衰えず、本屋さんに立ち寄った際に模型本を探す癖が未だ治らない。 しかし今時の模型本は、高価な大人の趣味になったラジコン機の記事が主で、それ以外の模型飛行機の記事は見かけなくなった事は残念。
・ もともと模型飛行機への興味は、うるさいエンジン音を立てアクロバット飛行をするラジコン機にはなく、「 ➀本物のように優雅に空を飛ぶ模型機を眺めたい ②よく飛ぶ フリーフライト模型機の設計製作 ③模型機の形がなぜ実機と異なるか、理由を知りたい 」 という事にあった。 特に③に関しては模型本に飽き足らず、若輩者の手にあまる、航空力学や翼理論の専門書にもあたった。 大人になって、実機と模型とでは機体の大きさや飛行速度が異なるため、翼周りの流れが模型では層流、実機は乱流になる等の事は理解できた。

飛行機の翼になぜ揚力が生まれるかの議論が、未だに続く訳
・ 「空気より重い飛行機がなぜ飛べるのか」 は昔から飛行機好きの関心を引くテーマであり、今は書籍に限らず、航空関連企業や教育機関・団体が、Web上で「飛行の原理」を解説している。 特に動画サイトでは、学術書に載るような流れ解析やシミュレーションの結果、実験映像を使って、より分かり易い解説をしている。
・ 推進力を得て前進する飛行機は、翼に発生する揚力でその重量を支える。(図1)
揚力発生は、翼周りの流れ(図2)で、翼上下面の流速差で両面間に圧力差が生じる結果と説明される。 しかしそうした説明に 「なぜ、そういう流れになるのか?」 とか、「揚力はベルヌーイの定理ではなく、コアンダ効果で生じる・・」 と異論を唱える人も少なからず。  ライト兄弟による人類初の動力飛行から120年後の今なお、飛ぶ理屈の議論が続くのは 「飛行機好きでも、翼理論まで理解する人は少数派」 という事なのだと思う。

翼に揚力が生まれる理由は、翼周りの流れや圧力を可視化すれば分る
・ 飛行機がなぜ飛べるかを理解するには、大気中を飛ぶ機体の外に広がる半無限域での流体力学を理解する必要がある。
1) 流体は「連続体」であり、翼と接した流体の挙動、圧力や速度は、周囲と相互干渉しつつ翼面から離れた流域に影響する。 従って翼の上流の流れも、翼に接触する以前から翼周りの流れの影響を受け変化している。 流れが翼に接触した所で” 多数の砂粒がバラバラと翼にぶつかり跳ね返る…” のような衝突現象をイメージするのは誤りである。
2) 翼周りの流れの影響が、離れた流域に及ぶには時間を要する。 図2は、飛び立った飛行機が所定の速度に至り、翼周りの流れの変動も収まった後の”定常流れ”を表している。流れが定常状態であれば、流線に沿って 定常流のベルヌーイの定理が成立する。

揚力を発生する翼の周りには、循環流が発生している
・ 図3,4 は2次元翼周りの流れを表す(文献5))。マーカー(青点)付き流体の移動距離の比較で、翼上面の流速が下面のそれを大幅に上回る事が分かる(図3)。これ程の速度差は “翼の上面と下面の経路長さが違うから” という説(図2の記述) では説明がつかない。
・ 図4では翼に近付く流れが上向きに、離れる流れが下向きに変わる事、それが”循環流”(ピンク矢印)の作用の結果と説明している。  翼前後の流れがこのように円弧状に曲がると、流れの運動量が重力方向に変化する結果、翼面に流体力、つまり揚力が発生する。

翼に周りに循環流が出来る事が納得できる解析結果<1>、実験結果
・図5-1)は、静止大気中を初速0から一定速に至る翼周りの流れを表す。 翼は速度Uまで加速する過程で、翼後縁から左廻りの渦(出発渦)を放出する結果、翼周囲に右廻りの渦(循環流)が成長する。循環流は翼と共に移動する束縛渦であり、速度Uが変わらない限り、新たな出発渦は発生せず、束縛渦の循環Γは一定値になる。 図5-2,5-3)は循環Γが一定の流線の図で、”ベルヌーイの定理”が成立する定常流れを表している。
・図5-1)は、循環流が成長する過程を表すと共に、速度Uで移動する翼によって静止流体がどのように動かされるかを示している。5-1) の見かけの流線は、翼によって押しのけられる流体の一瞬の動きを表していて、これを見れば翼の下面から上面に向けた循環流が有り、翼に揚力が生じる事に納得が行く。 ただし、このような過渡流れは、時間的空間的に固定した図に表しにくく (動画では観察可)、非定常流れ故に、揚力の計算も難しい。 飛行機が飛ぶ理屈を、図2のような定常流れの図だけでは説明しずらいのは、当然かもしれない

 

 

 

 

 


エピソード(10)

   “飛んで火に入る夏の虫”は、昆虫の焼身自殺にあらず、墜落事故と分かった

2024/2月 平 林 正 志

暗闇の中、昆虫は街灯の光に向って群がるわけではなかった
・ 夏の虫が光を求めて飛ぶうち、うっかり火に飛び込む事もあるのだと思っていたら、生物学者の研究チームが、それは全くの誤解である事を実証した。(図1)  野外および室内で、光源の周りを飛ぶ様々な昆虫の挙動、飛行軌道を計測(モーションキャプチャー)した。 その結果、➀光源より下を周回する昆虫、②光源の横を旋回する昆虫、③光源を中心に上昇下降する円軌道を飛ぶ昆虫、➀②③いずれの昆虫も、翅の背面を常に光源を向けて飛んでいる事が分かった。 そのため、上昇して丁度光源の上を飛ぶ昆虫は裏返しとなり、翅は揚力を失い失速、墜落する事も確認された。 もし光源が火であれば、この様子は “虫が自ら火に飛び込んだ” ように見られても不思議ではない。

昆虫は地上から飛び立った途端、天地の方向が分からなくなる?
・ 昆虫が地上から飛び立つ様子を撮った動画を見た(図2) 。飛ぶ前にまず体を斜め~垂直方向に向け、翅を目一杯に広げ、団扇で地面を扇ぐように1,2回大きく羽ばたいてから飛び立つ。 一旦離陸すると、速度や方向を自在に変えながら飛び廻る。 しかし中には離陸時に体が回転し、体勢を立て直せないまま墜落し、飛び立った台にぶつかる昆虫もいた。昆虫自身で羽ばたき方向を変化させた場合は、その反力として重心に生じる慣性力で体勢を整える事はできる(図3) 。 しかし常に掛かる重力(1G)に対しては、空力中心(翅の付け根)と重心までの距離が近すぎ、そのモーメントを感じ取るの難しいのではないか。
・ 昆虫と同様、鳥も羽ばたきを行うが、その目的は推進力を得る事にある。 翼を広げ前進するだけで揚力が生まれ、重力に抗う形の滑空飛行ができる。 動力の無いグライダーも、滑らかな形の機体と大きな翼幅で流れ抵抗を減らし、重力により失う高さの数十倍の飛行距離を滑空できる。 また、鷲や鷹、大型の海鳥のように上昇気流に乗り、地上に降りる事なく飛び続ける事も可能である (大型昆虫のトンボも、同様の滑空飛行が可能 (図4)) 。

鳥も飛行機も重力に抗って飛翔する一方、重力を頼りにもしている
・ 滑空飛行では、揚力、重力、推進力、抗力(抵抗)の “力の釣り合い” と共に、その状態を維持する “安定性” が重要となる。 そのため、飛行機やグライダーには主翼の他、主翼の迎角や機体の方向を一定に保つ”舵” の役割を果たす尾翼がある (鳥の場合は尾羽)。
・ 地方の丘陵地帯で、スカイスポーツの一つであるパラグライダーを見かける事がある。 パラグライダーは、パラシュートの傘に相当する帆の部分が翼になっていて、パイロットが帆を支えるロープを操作し機体を制御する。 パラグライダーの翼が風を受けて膨らめば、揚力、重力、推進力、抗力(空気抵抗)の “力の釣り合い” により滑空飛行が実現する (図5) 。またパラグライダーの特徴として、機体の重心位置が翼の空力(揚力+抗力)中心に対し十分低く、”振り子の効果” により、尾翼無しでも縦安定が保たれる事にある。( 迎角αに対して、空力による “モーメント”よりも、 重力による “モーメント” がずっと大きい。 従って外乱に対し合成モーメントは “ 方向に働く結果、迎角αは一定に保たれる (図6)) 。

昆虫も重力に逆らって羽ばたくが、安定飛行に重力は当てにできない
・ 昆虫や鳥の飛翔を扱った書籍、論文を参考に、飛翔体の大きさ、滑空飛行、羽ばたき飛行、重力の影響について考察した(図3~図5 &他の文献)。
1) Re数※>>1,体長1~10μmの虫や植物の種子 ⇒ 空気抵抗が主、移動は風任せ
2) Re数10~10^3,体長1~100mmの昆虫 ⇒ 翅で羽ばたき飛行。 トンボや蝶の大型昆虫は滑空可能。
複数の翅 各々をコントロールして姿勢制御、安定を保つ。
3) Re数10^3~10^6,体長0.3~10mの鳥、パラグライダー ⇒ 翼による滑空飛行可能。 更に、鳥は羽ばたき、
グライダーも動力付きであれば上昇、長時間滞空が可能。滑空飛行速度は、重量を支えるだけの揚力と尾翼による縦安定モーメントを作り出す。一方パラグライダーには、振り子構造による縦安定性があり、尾翼は不要。
[ <注> レイノルズ数: Re = 流速(m/s) ×翼弦長(m) / 動粘性係数(m^2/s)]
・ 昆虫は羽ばたく事で自身の重量を支え、推進力も得られる。 しかし一般の昆虫のサイズでは滑空飛行は非効率、気流に対する「舵」の効果も期待できない。 また、翅の空力中心と重心位置の距離が小さすぎ、パラグライダーのような振り子の効果で姿勢を保つのは困難なのだろう。

昆虫が、広範囲、長距離飛行を行う際は、日の光頼みとならざるを得ない
・昆虫は、視野の明るい方向を天(太陽の方向)、暗い方向を地と見立て、それを頼りに水平方向に飛んでいる。 従って夜間、点光源があると、それを太陽に見立てて翅の背面を向けて飛び続けるため、結果的に街灯や焚火の周囲をぐるぐる回り続けてしまうと解釈できる。